将棋の歴史は、千年以上の時を遡る壮大な知の物語である。インドのチャトランガを源流とし、中国のシャンチーや朝鮮のチャンギを経て、日本独自の進化を遂げた将棋は、中世の貴族文化に受け入れられ、やがて武家社会を背景に広く浸透していった。室町時代には駒の形や動きが定まり、江戸時代には将軍家の庇護のもと「名人制」が確立され、棋士という専門職が誕生する。副題「千年を超える知の系譜」は、ただの娯楽や勝負事を超え、人間の叡智と文化が積み重なり受け継がれてきた道程を示すものである。明治以降、近代国家の形成とともに将棋は国民的娯楽として根付き、新聞社によるタイトル戦の創設が棋界の発展を後押しした。さらに21世紀に入り、AIとの対局や国際的な普及活動を通じて、新たな局面を迎えている。将棋の歴史は、単なる勝敗の積み重ねではなく、人間の思考力・忍耐力・創造性を映す文化的遺産であり、未来へと続く知の物語である。
2023年5月29日月曜日
藤井聡太叡王が防衛果たし3連覇達成 菅井竜也八段との“死闘”制しシリーズ3勝1敗で六冠堅守 七冠獲得へ前進/将棋・叡王戦五番勝負
藤井聡太叡王が防衛果たし3連覇達成 菅井竜也八段との“死闘”制しシリーズ3勝1敗で六冠堅守 七冠獲得へ前進/将棋・叡王戦五番勝負
5/28(日) 21:09配信
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ABEMA TIMES
藤井聡太叡王
将棋の藤井聡太叡王(竜王、王位、棋王、王将、棋聖、20)が5月28日、第8期叡王戦五番勝負第4局の2度目の指し直しで菅井竜也八段(31)に90手で勝利、シリーズ成績3勝1敗でタイトル防衛と3連覇を達成した。決着局となった岩手県宮古市での本局は、異例の2度の千日手が成立。午後19時15分から始まった2度目の指し直し局を藤井叡王が制し、タイトル防衛を決め保持する6つのタイトルを堅守した。
【映像】藤井叡王が2度目の指し直し局で見せた好手
振り飛車党の菅井八段を挑戦者に迎えた“対抗形シリーズ”として注目を集めた今期の叡王戦。岩手県宮古市の「浄土ヶ浜パークホテル」を舞台に行われた決着局は、まさに“死闘”となった。午前9時からはじまった1回目の千日手局は序盤の44手で千日手が成立。午前11時30分から先後を入れ替え、藤井叡王の先手で指し直し局が開始された。前局までと同じ三間飛車の戦型となると、互いに一歩も譲らぬ大激戦に。終盤で勝負に出た菅井八段に藤井叡王が意地を見せ、午後6時32分に116手で2度目の千日手が成立した。
この地で防衛を決め切りたい藤井叡王に対し、カド番の菅井八段はフルセットが命題。2度目の指し直し局でも、これまでの4局と2回の千日手局と同様に三間飛車から相穴熊戦が繰り広げられた。ABEMAの中継に出演した井出隼平五段(32)も「誰が一番タフかを競う戦いに。すごい死闘を見ている」とコメントしていた。
飛車交換の激しい打合いとなると、同じく解説を務めた阿久津主税八段(40)は「(2度目の指し直し局は)もうさっきまでの細かな駆け引きがなく、殴り合いの将棋になった」。藤井叡王が飛車でこじ開けた先手陣にと金を滑り込ませてペースを握り、ぐいぐいとリードを拡大させていった。歩切れとなった菅井八段は攻撃の再構築が叶わず、力を封じられる苦しい展開に。攻めに専念することとなった藤井叡王は持ち前の終盤力を発揮し、最後は詰みに打ち取って勝利。盤石の差し回しで死闘を制し、シリーズを3勝1敗で防衛した。
勝利した藤井叡王は、「(2度目の指し直し局は)途中から激しい攻め合いになったが、こちらの攻め駒が少なく上手くいっていないのかなと思っていた。端を攻めていく展開になって、非常に際どかったと思うが、最後抜け出せたのかなと思う。2局目(1度目の指し直し局)の将棋も途中苦しい局面があったかなと思いますし、全体を通して大変な戦いだったと思っています」と都合“3局”に及ぶ大激闘を振り返った。さらに、3連覇を飾った今シリーズについては、「相穴熊になった将棋が多かったが、中盤から終盤にかけてうまく距離感を掴めなかったところがあったと思うので、そのあたりに課題を感じた。全体を通しても苦しいシリーズだったので、その中で結果を出せて嬉しく思っています」と総括して喜びを語った。
一方、敗れた菅井八段は、「今日の将棋は千日手局で勝負しにいかないといけない局面があったが、結果的に千日手にしてしまったのが良くなかった。数年ぶりのタイトル戦ということもあり、気合が入っていたが、結果は1勝3敗。力不足だったと思っています」と疲労をにじませていた。
防衛・3連覇を果たした藤井叡王だが、今後も一息つく間もないほどの対局ラッシュが待ち構える。中2日の5月31日には、初挑戦で最年少名人と七冠獲得に王手をかけている名人戦七番勝負第5局が2日制で行われ、6月5日には防衛戦の棋聖戦五番勝負が開幕。第1局は藤井叡王にとって初めての海外対局としてベトナム・ダナン市での開催が予定されていることもあり、タイトル戦の重要対局だけでなく移動も含めた超ハードスケジュールを過ごすことになる。ファンにとっても目の離せない対局の目白押しとあり、嬉しくも緊張感あふれる初夏を送ることになりそうだ。
(ABEMA/将棋チャンネルより)
2023年5月23日火曜日
将棋界400年の歴史を塗り替える男—藤井聡太の天才性と八冠独占の可能性
文化 2023.05.23
松本 博文 【Profile】
弱冠20歳の青年が豊かな才能と努力をもって将棋界を席巻。次々と最年少記録を塗り替え、将棋愛好家だけでなく日本中から注目を集める存在となっている。今年中には前人未到の「八冠」に挑もうかという破竹の勢いの天才棋士・藤井聡太の強さの理由とその価値に迫る。
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天才集団の頂点に立つ棋士
藤井聡太は、現代将棋界の若き王者だ。年齢はまだ20歳。面立ちにまだどこかあどけなさを残した青年が現在、400年以上も続く将棋界の歴史を、大きく塗り替えようとしている。
藤井がどれほど傑出した存在なのか。将棋にあまり詳しくない方にもできるだけ分かりやすいよう、紹介していきたい。
将棋とは2人のプレーヤーが1手ずつ自分の駒を動かし、相手の玉(ぎょく、チェスでいうところのキング)を動けなくしたら勝ちとなるボードゲームだ。縦横9路ずつ、81マスの盤の上で、40枚の駒を用いる。チェスなどと異なり、相手の駒を取ると、自分の物として再利用できる点に大きな特徴がある。
「将棋こそは、世界一面白いゲーム」
そう信じている、熱烈な将棋愛好家は多数存在する。将棋のアクティブな競技人口は数百万人とも推定される。
強いプレーヤーには「棋士(きし)」と呼ばれる資格が与えられる。棋士はファンにとっては、憧れや尊敬の対象だ。棋士になるのはとても難しく、おそろしく厳しい競争を勝ち抜く必要がある。棋士になれるのは、原則として年間で4人だけ。現役の棋士は現在、170人ほどしかいない。
「天才集団」と呼ばれる棋士たちの中にあって、現在頂点に立っているのが、藤井聡太なのだ。
才能とAIが融合した進化系棋士
2016年10月、藤井は14歳2カ月で棋士となった。これは史上最年少の記録である。将棋史上に名を刻む大棋士たちはほぼ例外なく、年若い頃から才能を現してきた。そうした中にあっても、藤井は過去に例のないほどの早さで、大活躍を始めていく。
史上最年少でプロデビューを決めた当時の藤井竜王(2016年9月3日、東京都渋谷区) 時事
史上最年少でプロデビューを決めた当時の藤井竜王(2016年9月3日、東京都渋谷区) 時事
藤井はデビューした時点ですでに、完成品ともいえる強さを備えていた。
これまでの新人は大器であっても、経験がものをいう対局序盤を苦手とする例があった。一方で藤井はほとんどミスをせず、序盤から中盤にかけて優位に立つ。読みが正確で、中盤や終盤で崩れることはない。一局のうちには必ずといっていいほど、人が考えつかない、天才的な冴(さ)えた一手を披露する。そして最終盤の玉が詰む(動けなくなる)、詰まないという複雑で難しいところは、藤井が最も得意とする分野だ。まれに形勢が悪くなっても、簡単にはあきらめずにうまく粘る。そしていつの間にか逆転し、最後は勝ってしまう。
藤井はデビューから1度も負けることなく勝ち続け、社会では次第に藤井フィーバーが起こった。そして藤井はそのまま29連勝してしまった。それまでの最多連勝記録は28連勝。藤井はいきなりとてつもない大記録を打ち立て、国民的なヒーローとなった。
どんな分野においても、若き天才が慢心し、成長が止まってしまうことはままある。しかし藤井はそうした姿勢をまったく見せない。どれほど勝ち続けても、いつもコメントは謙虚だ。そして研鑽(さん)を怠らない。
現代の将棋界では、コンピュータ将棋ソフト(AI)を用いた序中盤の研究が、勝負の行方に大きく関わるようになった。藤井はそうした点でも、遅れを取ることはない。
ただし藤井の底力は、AIとは関係のないところで育まれてきた。AI研究があってもなくても、藤井の才能の豊かさが変わることはない。
最年少記録に彩られた数々のタイトル
将棋界には竜王、名人、王位、叡王、王座、棋王、王将、棋聖と8つのタイトル戦が存在する。
タイトル戦は1年に1期ずつおこなわれる。各タイトル戦では1人のタイトル保持者がチャンピオンとして頂点に君臨する。多くの参加者によってトーナメントやリーグが戦われ、そこを勝ち抜けば挑戦者となる。タイトル保持者と挑戦者は番勝負(7局か5局)でタイトルを争う。
これまで将棋界でタイトルを獲得してきたのは、ほとんどの場合ごく限られたトップクラスの棋士だった。1度でもタイトル保持者となれば、歴史に名を残すほどの大きな勲章となる。
2020年、当時まだ17歳だった藤井は棋聖戦を勝ち抜き、史上最年少でタイトル挑戦者となる。そして五番勝負を制し、史上最年少でタイトル保持者となった。
以後藤井は、順に王位、叡王、竜王、王将を獲得。2023年3月には棋王を獲得し、史上最年少で六冠となった。
2023年5月23日現在、六冠を有した状態で渡辺明名人(左)との名人戦に挑んでいる藤井竜王。今季中に残る「名人」と「王座」を獲得しての八冠独占が期待されている(2023年4月23日、愛知県名古屋市) 時事
2023年5月23日現在、六冠を有した状態で渡辺明名人(左)との名人戦に挑んでいる藤井竜王。今季中に残る「名人」と「王座」を獲得しての八冠独占が期待されている(2023年4月23日、愛知県名古屋市) 時事
棋士には実績に応じて段位が与えられる。タイトルを持たない一般的な棋士は、この段位を名乗っている。棋士の資格を得れば四段。次いで、五段、六段、七段、八段、九段と昇段していく。
2021年、藤井は史上最年少18歳で、最高段位の九段に昇段した。ただし「藤井九段」と呼ばれる機会は、いまのところない。タイトルを持つ場合には、段位よりもタイトル名で呼ばれるからだ。
ただ、藤井が持つタイトルすべてを読み上げていくとあまりに長くなってしまうので、現在は一般的に「藤井六冠」とも呼ばれる。正式な肩書は「藤井竜王」。8つのタイトルの中でも竜王位はグレードが高く、名人位と並んで別格として扱われているからだ。
2023年5月現在、藤井は名人戦七番勝負で渡辺明名人(39歳)に挑戦している。
「名人」とは江戸時代以来、同時代でただ1人だけ名乗ることが許される、将棋界最高の称号だ。1935年に現代的な選手権制によって名人位が争われるようになってからも、名人位に就いた者は数えるほどしかいない。
藤井が今期、もし名人位を獲得すれば、史上最年少20歳での名人就位となる。
名人戦七番勝負は第4局が終わった時点で藤井が3勝1敗とリードし、七冠に王手をかけている。藤井と渡辺の対局はいつも手に汗握る熱戦となるのだが、最後は藤井が勝っていることが多い。このまま藤井が押し切ってしまう可能性は高いといえそうだ。
史上初の八冠制覇の可能性
藤井が六冠に加えて名人をも獲得すれば、やはり史上最年少20歳での七冠達成となる。
過去の七冠達成者は、羽生善治(現在52歳)ただ1人だけだ。羽生は1996年、25歳のとき、当時存在した7つのタイトルすべてを制覇。空前のフィーバーを巻き起こした。
藤井はこれまでタイトル戦で敗退したことは、一度もない。このまま防衛と挑戦を続けていけば、史上初の八冠制覇も夢ではない。
将棋界ではどれほど優れた棋士であっても、年度勝率で8割を超えることはほとんどない。「史上最強」と呼ばれる羽生が勝率8割を3回も超えているのは驚異的なことだ。一方で藤井はデビュー以来6年連続で8割台を続けている。今後も羽生の数々の実績を超えていく可能性がある棋士は、藤井のほかにいないだろう。
八冠目となるタイトル「王座」は現在、挑戦者を決めるトーナメントが進行中。藤井はベスト8に残っている。あと3連勝すれば永瀬拓矢王座(30歳)への挑戦権を獲得。例年9月に始まる王座戦五番勝負は、もしかしたら八冠チャレンジの舞台となるかもしれない。
「藤井八冠誕生は、もう間違いないのではないか?」
現在はそうしたムードも漂いつつある。ここまでの藤井の勝ちっぷりを見ていると、やはり史上初の八冠に期待したくなる。
とはいえ、実際にはそう簡単なことではない。また、簡単に八冠を成し遂げられてしまうのは見たくないという人もいるだろう。
藤井が進化を遂げていく一方で、藤井に勝とうとする棋士たちによって、全体的なレベルもまた引き上げられていく。
ともあれ、藤井が八冠に至る途上においては、歴史に残る名局が多く生まれることを期待したい。
バナー写真:第48期棋王戦に勝利して史上最年少で六冠を達成。笑顔で記念撮影に応じる藤井聡太竜王(2023年3月20日、栃木県日光市) 時事
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